『エルストリー1976 -新たなる希望が生まれた街-』レビュー【ネタバレあり】

 12月17日(土)公開の『エルストリー1976 -新たなる希望が生まれた街-』のレビューです。

 「ネタバレ」という言葉は、基本的にストーリーのある劇映画に使われることが多い言葉であり、ドキュメンタリー映画に使用するのはふさわしくないかも知れませんが、内容に触れているので便宜上「ネタバレあり」としておきます。

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キャスト自身の人生と向き合うドキュメンタリー

 『エルストリー1976 -新たなる希望が生まれた街-』は、素顔がマスクで隠れていたり、エキストラのような役柄であった10人の『スター・ウォーズ』キャストたちによるインタビューで構成されたドキュメンタリー映画。

 『エルストリー1976』という『エピソード4/新たなる希望』の撮影スタジオの名を冠したタイトルだが、例外として『帝国の逆襲』から参加のジェレミー・ブロック(ボバ・フェット役)も登場している。

 彼らが『スター・ウォーズ』と出会うまでのプロフィールと、そして予期せず映画史に残る作品となった『スター・ウォーズ』に出演することになり、伝説的な撮影現場に居合わせた際のエピソード、さらに『スター・ウォーズ』に出演した後も続いていく人生について、本人たちが自身の声で語っていく。

 本作に出演するキャストたちは、『スター・ウォーズ』ファンにとってはコンベンションなどのサイン会や撮影会イベントによく参加しているおなじみの面々だ。私も、本作の出演者の方にサインを頂いたことがある。

 あの『スター・ウォーズ』の撮影現場で作品の制作に携わり、たとえ映画には一瞬の登場だったとしても『スター・ウォーズ』ギャラクシーのキャラクターを演じることであの世界の一部となったこれらのキャストたちは、程度の差こそあれ『スター・ウォーズ』ファンにとっては憧れの存在だ。

 エキストラでも良いので出演すれば、フィギュア化されて世界各地でサイン会も開ける。これは他の映画では考えられないことだ。

 ファンからすると、『スター・ウォーズ』に出演出来るなら人生を投げ打ってでも、是が非でも出たい!と思うところである。

 当のキャストたちが『スター・ウォーズ』に出演出来たことにについてどう思っているのかというと、「フィギュアとして形が残るのは役者冥利に尽きるよ」と誇りに思う者もいるし、人気があるのは自分自身ではなく演じたキャラクターの方であると、冷静な意見を言う者など様々だ。

 彼らは、本作全編を通して自身の人生を語り続ける。

 ポール・ブレイク(グリード役)は若い時、自分の故郷に将来を感じられず、自分もいずれこの故郷の人々と同じようになるのかと思っていた。タトウィーンで青春を過ごすことを嘆く、ルークのように。

 後に、父親の象徴となるようなキャラクターを演じることになるデイヴィッド・プラウズ(ダース・ベイダー役)は、5才で父を亡くしていた。

 彼らの身の上話を聞いていくうちに、『スター・ウォーズ』ファンにとってはキャストの名前と演じたキャラクター名はよく知っていても、そのキャストの人となりやプロフィールをこれまでよく知らなかったことに気付いてくる。マスクをしていたキャストに至っては、その顔すら劇中で見てはいない。

 はたして、我々『スター・ウォーズ』ファンはちゃんと彼ら自身と向き合っていたのか。その演技に惹かれたのではなく、ただキャラクターと同一視して憧れて、サインや写真をねだっていただけではなかったか。

 このことに気付くと、本作はファンにとってなかなかに痛烈な作品になってくる。

 この作品に多くの『スター・ウォーズ』俳優が出演し、インタビューに応えたのは、自分たち自身のことをもっと知ってもらいたいと思ったこともあるのかも知れない。

貴重な『スター・ウォーズ』撮影当時の証言集

 もちろん、キャストたちが語る『スター・ウォーズ』撮影当時の思い出話も本作の見どころのひとつだ。

 本作は、『スター・ウォーズ』のメイキングを描いたドキュメンタリーではないが、あの伝説的な1976年の夏のエルストリースタジオに居合わせた者による『スター・ウォーズ』撮影時のエピソードの証言集は、資料的価値の高いものである。

 最初はインディーズ映画だと思っていたものの、巨大なスタジオ、使い古された演出が施された宇宙船、別世界のようなセットなど、他の同時代のSF映画とは違うと感じたというコメントは、伝説の目撃者による当時のリアルな感想だと思った。

 マスクを着用するキャラクターを演じたキャストが話す、1976年の記録的に暑かった夏の苦労話もまた、文字通り当時をその場所で生きた者の貴重な証言だ。

 また、監督のジョージ・ルーカスに関しては「監督が誰かわからなかった。静かにヒゲをかくだけだった」というものや、雑談のみだったオーディション、「映画でよく見る感じで」というざっくり過ぎる演技指導をグリード役のポール・ブレイクにしたエピソードなど、これまで伝え聞いてきた撮影現場でのシャイなジョージ・ルーカス像と違わないので「あぁ、やっぱり…」と従来の印象が補強される証言を聞くことが出来て興味深い。

 『スター・ウォーズ』以外の映画の舞台裏のエピソードが披露されることも。デイヴィッド・プラウズは『時計じかけのオレンジ』で、マルコム・マクダウェルを抱えて運ぶなど体力勝負なシーンが多く、何テイクも撮影するスタンリー・キューブリックの演出に、思わず「1発OKになるのか?」と聞いてしまった、という話が恐れ知らず過ぎて笑えた!

コンベンションへの本音、そして「希望」

 華々しい『スター・ウォーズ』に出演した後も、人生は続く。世界中で大ヒットし、映画史に残る作品に出演しても俳優としてブレイクすることはなく、役者業への執着を抱えながら日々の生活に苦闘するキャストたち。

 そんな彼らが出会ったのが、ファンが集うコンベンションだ。大勢のファンが自分たちに注目してくれ、サインや写真撮影の列に並びお金も払ってくれる。

 人気キャラクターやマスクをかぶったキャラとの格差の話もリアルで(デイヴィッド・プラウズとジェレミー・ブロックは、自身が演じた役に感謝するコメントが多く、ダース・ベイダーとボバ・フェットという人気キャラクターを演じたことが大きな要因だと感じる)、キャストたちが実際、コンベンションについてどう思っているのか、イベント会場では聞けないであろう本音が聞けるのは興味深い。

 中でも、ファンに喜んでもらうことで自身もまた幸せな気分になれる、というコメントには、ほろ苦い話題も多い本作の中で救われる思いがする。

 『スター・ウォーズ』では脇役だったかも知れないが、間違いなく、彼らの人生の主人公は彼ら自身だ。

 『スター・ウォーズ』だけが人生じゃない。あくまであの作品は、私の一部であると語る姿に、ひとつの映画と偶然出会ったためにひとりひとりの人生に与えられた大きな影響と、そんな波の中でも自分自身を生きていく強さを感じるのである。