2017年9月30日(土)、Star Wars公式Twitterとinstagramに『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』に登場する新クリーチャーの切り絵アートの写真が投稿されました。
#TheLastJedi's creatures inspired this
paper art by @shibaura_hm. pic.twitter.com/Mx5gWFyGTg— Star Wars (@starwars) 2017年9月29日
この新クリーチャーは、『最後のジェダイ』のメイキング映像や予告編に印象的に登場していますが、新惑星のクレイトに現れるという以外はその名前も明かされていない、ミステリアスなキャラクターです。
海外のファンの間では、結晶状のクリーチャーということで「Kyber fox」とか、その真っ白な外見から「Ice fox」などと呼ばれていますが…キツネともオオカミとも呼べそうな、この犬系のクリーチャーの正体も『最後のジェダイ』では注目です。
そんな最新作のクリーチャーを、早くも切り絵アートで表現したのは日本人の『スター・ウォーズ』ファンである芝浦(Yuki Shibaura)さん。まだ誰もアートの題材にしていない新キャラクターを先取りで制作して、全世界のファンが集う『スター・ウォーズ』公式アカウントにて公開されるとは!
芝浦さんは、切り絵をはじめとした様々なハンドメイド作品を制作されており、ビーズアート、フェルト人形、消しゴムハンコ、扇子などなど、手作りで出来るものであればそのジャンルを問わず、幅広く手掛けています。
また、ハンドメイド作品だけではなく、凛々しいオビ=ワンやアナキンのデジタルイラストを描かれることも。
そしてオビ=ワンといえば、芝浦さんのもうひとつの顔がコスプレイヤー。『エピソード3/シスの復讐』のオビ=ワン・ケノービのコスプレをされて10年という、こちらもその道のベテランです!
10年の間で改良を重ねた衣装は現在4代目。特にジェダイローブの背面のドレープ(布のやわらかいひだ/たるみの部分)がゆったりと流れるようで洗練された印象。映画のオビ=ワンのローブのイメージ通りです!
世界中のファンが集まる公式イベント「スター・ウォーズ セレブレーション」で開催されたハイレベルなコスプレコンテストでは、過去に3度も上位入賞を果たしており、コスプレでも世界に認められていらっしゃいます。
その「スター・ウォーズ セレブレーション」では、『スター・ウォーズ』公式SNSに掲載!ナスでポーグを作った日本人野菜彫刻アーティスト・Okiさんにインタビューのエントリーにご登場頂いたOkiさんとともにファンブースにてご自身の作品の展示。切り絵アートを元にしたポストカードを日替わりでブースにて配布したところ、いずれのポストカードも会期中に配布終了となるほどの人気に!
まさに、様々な分野で世界のファンダムに発信を続けているのです。
今回は、そんな芝浦さんの作品の数々と、切り絵アートの作り方やその魅力、そして世界のファンからのリアクションなどについてお話を伺いました!
『スター・ウォーズ』切り絵アート作品集
まずは、芝浦さんがこれまで制作された切り絵アート作品を見てみましょう。
「The HOPE : Rogue One」
こちらの「The HOPE : Rogue One」は、『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』を題材にした切り絵作品。
ゲイレン・アーソ、ジン・アーソ、そしてレイアへと受け継がれていく「希望」をテーマにしています。デス・スター設計図から伸びる希望を表すような波と、デス・スターを背景に各キャラクターを配した構図が見事です。
この「The HOPE」について、芝浦さんに作品が出来るまでの構想やテーマなどの解説を頂きました。
この作品は、2017年4月に開催された「スター・ウォーズ セレブレーション オーランド」のためのメイン出展作です。
設計図のデータが3人のキャラクターに受け渡され、流れていくさまを表現しています。親子を伝わるときは「水」の波、ジンからレイアに伝わるときは、「デジタルな波形」の波をそれぞれイメージしています。
構図が固まるまでが長く、産むのにかなり苦しんだ作品の1つです。初期デザインではレイアの位置はキャシアンで、データを送り出すまでのドラマを描こうと考えていましたが、最終的には映画のストーリー同様、送りだした「希望」が無事届くまでを表す今の形となりました。黒1色なのは、切り絵作品に使う色として見栄えが良く、世間の多くの作品でも多用されるポピュラーな色だからという理由もありますが、ゲイレンとジンは劇中で亡くなり、キャリー・フィッシャーさんはこの作品の制作中に亡くなりました。その「遺影」の意味も込めています。
「The Last Scene of TFA」
続いて、『フォースの覚醒』を題材にした「The Last Scene of TFA」。そのタイトルの通り、『フォースの覚醒』のラストシーンであるオクトーの「ジェダイの階段」を登っていくレイの後ろ姿を切り絵にしています。
こちらは色彩が豊かな切り絵ですが、丁寧に切り抜かれた紙を1枚、1枚重ねてひとつの絵が作られており、緑地と岩場をよく見ると、それぞれ同系色の紙を重ねて画に奥行きを出していることがわかります。
これまで1~3枚程度(つまり1~3色)を使った作品が主だったのですが、「色をたくさん使ってみたらどうなるだろう?」という興味から生まれた、ある意味実験作です。2枚以上の紙を使う場合には必ず入っている、作品のメインとなるキャラクターなどを描いた「線画」にあたる紙もありません。
中心にいるレイは周囲の何枚かの紙がそれぞれ部分的に作り上げる輪郭の集合体となっています。これからルークと出会う、彼女の「フォース」を表現したかったので、レイのディティールはあえて描いていません。
中国の民芸を参考に、10年間磨いてきた技
―― 切り絵の制作を始めたきっかけを教えてください。また、はじめてから何年になりますか? 最初から『スター・ウォーズ』を題材にされていたのでしょうか?
芝浦さん 10年ほど前に年賀状用に作りだしたのがはじまりです。その当時から『スター・ウォーズ』関連で知り合った友人向けには、『スター・ウォーズ』の絵柄の年賀状を送っていました。
そのほかは、中国の花鳥風月や、子供のいる家向けには「ポケモン」などを作っていました。同じ絵柄を短期間に何十枚も作る必要があるので、この頃の切り絵はとても簡単な絵柄でした。
―― 年賀状で切り絵を1枚1枚作られていたとは…もらった方も、うれしかったでしょうね。その作品を制作する技術は、 どのように習得されたのでしょうか?
芝浦さん 手法は中国の民芸「剪紙」を参考にしています。一枚の紙を一本の刃物のみで切り抜くというものです。中国の職人の作業風景動画などを見たりもしていますが、基本的には自力でコツをつかむしかありません。
失敗を回避する方法や綺麗に仕上げる方法などは、単純に数をこなしてトライ&エラーを繰り返すことで習得していきました。
切り絵アート制作風景公開!
―― 切り絵アートの制作の過程について教えてください。
芝浦さん デザイン段階ではパソコン用ソフト「Photoshop」を使っています。出来上がったデザインを下絵として薄い紙に印刷したものを切り絵用の紙に重ね、デザインナイフで2枚同時に切ります。
―― こちらが切り絵アートのメイキング動画ですね。本当に細かくて繊細な作業で、息を飲みます…
芝浦さん 銅色に見えるのが切り絵用の紙、白地に青で絵柄が入っているのが下絵を印刷した紙です。裏から見ても美しく見えるよう、「切り絵用の紙には下書きを残さない」がポリシーです。
―― 作品の制作期間は、どの程度なのでしょうか。
芝浦さん 切る作業にかかる時間は、小さなもので4~5時間、大掛かりなものでは6~70時間くらいです。
上記動画の『ローグ・ワン」の作品は、アイデアスケッチから完成まで1か月半程度でした。アイデアがまとまり「絵」として完成するまでの時間のほうが、切る時間そのものよりはるかに長いです。
なのでパソコンに向かっている時間のほうが、実は長かったりします…
―― 作品制作のための時間は、 普段どのようにして捻出されていますか?
芝浦さん 小さなものは、すきま時間でやっています。朝早く起きたりとか。大きな作品の場合は、休日をまるまる作品制作にかけなくてはならなくなります。年末年始やゴールデンウィークのほぼ全部が作品制作時間になったりも。
友達の遊びや食事の誘いを全てバッサリ断ることになるので、大きなイベントの前はかなり「つきあいの悪いやつ」になっちゃいます(笑)
1カットのみの新キャラを題材にする上での工夫とは
―― 今回、制作する上での参考資料は プロモーション映像の1カットのみかと思いますが 少ない資料から作品を製作するコツはありますか?
芝浦さん 確かに1カットしかないうえ、このキャラクターに関する他の情報(名前、生態、住んでいる惑星など)が全くないので、この場合は下手なアレンジはしないほうが良いだろうと考えました。
ですので、独自性を出して良さそうなところだけ出し、基本は元映像をトレースすることにしました。
わからないことだらけですが「体毛がクリスタルのようなものらしい」ということだけは明確なので、体毛の表現を少々マンガっぽくアレンジし、外枠のデザインもクリスタルを連想させるものにしています。
―― 写真を見ながら作品を作ることと、ご自身の中にあるイメージから作品を制作されることでは、いずれの方が多いでしょうか?
芝浦さん 期限的に仕方がなかったものを除き、映画を少なくとも3~4回は見て自分の中にイメージが出来上がってから制作に入っています。もちろん、その際にはある程度、もとのキャラクターの映像や写真を参考にはしますが、最終的にはほとんど”自分の絵柄”になっています。
すべての作品がそうではないのですが、基本の手法が「中国剪紙」なので、中国民芸風のアレンジをしたり、「セレブレーション」出展作に関しては和風のデザインを意識的に入れています。
海外ファンからポストカードが大人気!
―― 『スター・ウォーズ』公式SNSで作品を発表することになった経緯を教えてください。
芝浦さん 海外「スター・ウォーズ セレブレーション」で作品展示を続けているうちに、公式SNS担当者の方から声をかけて頂きました。
―― これまでに参加された「セレブレーション」でのブース出展が、ルーカスフィルムはもちろん海外のファンの注目を集めたことかと思います。海外ファンからの作品への印象的なリアクションやエピソードがありましたら、教えてください。
芝浦さん 2015年のアナハイム参加時から出展作品の絵柄をポストカードにしたものの配布をはじめたのですが、これがとても好評で、毎日決まって開会後すぐにもらいに来てくれる方、前回配布分をコンプリートしたことを見せに来てくれる方、額装して自宅に飾ってくださっている方などいらして、とてもうれしかったです。
2016年のロンドンではブースを出さず、私は一般客として遊びに行っただけなのですが、facebookやinstagramに「もし会場で見かけたら声かけて!新作持ってます!」と載せ、新作のカードを少数作って持っていました。
こちらとしては会場を歩いていて、たまたま出会えたら名刺がわりにカードを渡せたらいいな、という感覚だったのですが、どうしても入手したいという方数名から「待ち合わせ」のご依頼もあり…その熱意には驚かされました!
―― 作品の発表方法は、SNSと水分農場組合などのイベントが中心でしょうか? ファンが作品を見られるような場があれば、 教えて頂ければと思います。
芝浦さん そうですね。完全な私のオリジナル作品であれば他の機会を増やせるのでしょうが、『スター・ウォーズ」を扱っているという時点でその発表の場はすごく限られてしまいます。
日本では水分農場組合が、見て欲しい人たちに見て頂ける、いちばんの機会です!毎回場所を頂き、ありがたいです。
切り絵のように積み重ねてきた活動が、 世界で注目を集める
紙とナイフがあれば作れる切り絵。しかし、芝浦さんのように細部まで作り込まれた緻密な作品を作れるようになるためには、たくさんの作品を作り、試行錯誤を重ねること、そして何よりも10年もの間、「続けること」が大切なのだと実感しました。
たとえ好きなことでも、「続ける」ということは難しいことでもあります。好きでいられるための情熱も、何かのきっかけでなくなってしまうかも知れない。そんな中でも続けることが出来ると、制作動画のようなあざやかな手さばきで作品を表現出来るようになるのでしょう。「続ける」ということは、1枚1枚を積み重ねて作る、切り絵作品のようです。
ハンドメイド作品も、コスプレも10年続けてこられたことで、チャンスが訪れた時にその期待に応えるような技をお持ちになっており、世界でも注目される活動につながったのだと思いました。
『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』最初の作品は、名前が明かされていないクリーチャーでしたが、芝浦さんは『最後のジェダイ』を観賞した後に今度はどのようなシーンを題材に作品を作られるのか、非常に楽しみです!
We
can't help but feel Grand Admiral Thrawn would appreciate @shibaura_hm's paper art.
#StarWarsRebels pic.twitter.com/UD3PigWcKU— Star Wars (@starwars) 2017年10月16日
そして、先日10月16日(月)には「スター・ウォーズ 反乱者たち」シーズン4の全米放映に合わせて、芝浦さんが制作したスローン大提督の切り絵アートがStar Wars公式Twitterに掲載されました!
スローンの目元の線の繊細さに圧倒され、本当に切り絵なのかと思うほどの仕上がりです…この作品について、また芝浦さんに解説を頂きましょう。
『スター・ウォーズ』のアニメシリーズは基本的にシンプルなデザインなので、スローンに限らず切り絵にするのが難しい題材です。
切り絵の線はすべてが必ずどこかで繋がっていないといけません。たとえばキャラクターの顔の場合、他の作品の多くは目や鼻の線を前髪の線などと繋げていますが、彼の場合はしっかりセットされたオールバックのためその手は使えず…制服も柄もなければシワもないので、違和感なく線をつなげることに苦労しました。
特に顔の部分の線は非常に細く、「髪の毛作戦」が使えなかったため強度的にも問題があり、少しでも注意を怠れば作業中に壊してしまう可能性が高いものでした。
最後まで気の抜けない作品でしたが、一度の失敗もなく仕上がった自信作です!
これは芸術に目がないスローン大提督も満足の作品ですね…
芝浦さんの今後の作品は、以下のホームページ/ブログ/SNSでチェックしてみてくださ
い!
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