『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』が撮影され、我々が知る映画になるまでにそのストーリーやキャラクターはどのような変遷を辿って行ったのでしょうか。
『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』の企画立案からポスト・プロダクションまでのコンセプトアート、デザインワークなどを収めた公式アートブック「アート・オブ・スター・ウォーズ/フォースの覚醒」には、完成した映画には採用されなかった様々なアイデアの一部を垣間見ることが出来ます。
実際の映画とは大きく異なる設定が多く、『フォースの覚醒』がなじんできた今見るとなかなか興味深い、『フォースの覚醒』の初期構想アイデアをご紹介します。
目次
- 1 ボツになった
『フォースの覚醒』初期構想アイデア
- 1.1 レイの初期の名前は「キラ」だった
- 1.2 青と赤、二色混在のダブルブレードライトセーバー!
- 1.3 レイはジャクーを離れたがっていた
- 1.4 フィンは元々、ハン・ソロのようなタイプのキャラクターだった
- 1.5 ポー・ダメロンは、ジェダイか賞金稼ぎだった
- 1.6 フィンは、原住民に助けられるはずだった
- 1.7 マズ・カナタはパペットで撮影される予定だった
- 1.8 水中に沈む第2デス・スターの残骸から 「地図」を探すストーリーだった
- 1.9 スターキラー基地はダントゥインにある構想だった
- 1.10 アナキン・スカイウォーカーが霊体で登場する構想だった
- 1.11 カイロ・レンに至るまでの様々な悪役のアイデア
- 1.12 「ウォーハンマー」という超兵器をレジスタンスが使用
- 1.13 呑んだくれでマカロニ・ウェスタン風のハン・ソロ
- 1.14 BB-8の初期構想の名前は「サーリー」
- 1.15 ジャクーは砂漠だけの惑星ではなかった
- 1.16 ダース・ベイダーの城がレイアのレジスタンス基地に
- 1.17 ミレニアム・ファルコンに宇宙海賊が乱入
- 1.18 最高指導者スノークは女性キャラクターという構想も
- 2 完成に至るまでに あったかも知れない『フォースの覚醒』
ボツになった
『フォースの覚醒』初期構想アイデア
レイの初期の名前は「キラ」だった
レイは制作初期では「キラ」という名前で、孤独で短気、メカに強いという性格と位置付けられていたようです。孤独、メカ好きという点は完成版に引き継がれていますが、レイは短気とは言えないですね…
この「キラ」は、完成した『フォースの覚醒』でのレイとはまた違ったタイプのヒロインになったのでしょう。
青と赤、二色混在のダブルブレードライトセーバー!
コンセプトアートの中には、片方に赤、もう片方に青の光刃を持つ、1本で二色が混在するダブルブレードライトセーバーを構えるキャラクターが!
炎と氷を連想させるようなライトセーバーですが、このアイデアの時点ではどのようなキャラクターが持つ予定だったのか…ライトサイドとダークサイドの両方を知る人物だったのでしょうか…
実際に、炎と氷を同時に見せるビジュアルが欲しいとリック・カーターが熱心に主張していたようで、この他にも雪山から溶岩が流れ出ている情景が描かれたコンセプトアートもあり、「炎と氷」というインスピレーションがあったようです。
結局、ストーリーに合わないということで二色混在ダブルブレードライトセーバーのアイデアは使用されませんでした。
レイはジャクーを離れたがっていた
『フォースの覚醒』でレイは成り行き上、ジャクーを飛び立つことになっても、ハン・ソロに認められて一緒に働くことを打診されても、「家族」が来るのを待っているからジャクーへ帰ると主張し続けます。
ただ、初期構想での後のレイとなるキャラクター「キラ」は、中古車置き場で年長の父親のような旧共和国のパイロットのキャラクターのために働きながら、宇宙船を毎日見つめ、ジャンク品だらけの惑星から宇宙へ飛び立って銀河を旅することを夢見るという設定だったようです。ストーリー上の行動の動機付けがまったく違うことになりますね。
完成した『フォースの覚醒』では、ジャンク品を磨くシーンやジャクーを飛び立つ宇宙船を見つめるまなざしに、その名残を感じさせられます。
「家族」を待っているとはいえ、過酷なジャクーでの生活はいつまで続くのだろうか。このままの生活が続くと、自分も目の前でジャンク品を磨く老婆のようになってしまうのだろうか…
しかし、レイにはジャクーに迎えに来てくれるはずの「家族」がいます。心のどこかで、もう来ないということに気付きながらも、希望を捨て去ることが出来ずに…
またミレニアム・ファルコンは、そのジャンクヤードの中にある船だったとのこと。これは『フォースの覚醒』にそのまま採用されていますね。
フィンは元々、ハン・ソロのようなタイプのキャラクターだった
フィンは初期構想では「サム」というキャラクター名。初期の脚本を書いたマイケル・アーントいわく「純粋なカリスマ」で、若い白人で密輸屋タイプの、若いハン・ソロとアナキン・スカイウォーカーの間のような人物だったようです。
これも完成版のフィンのイメージとは全然違っていて面白い…収録されているコンセプトアートからは、ハン・ソロの若い頃のようなイメージを感じます。
また、この「サム」は元ストームトルーパーであり、銃殺隊による処刑か、捕えた反乱軍をエアロックから放り出す場面のどちらかを目撃したことにより、ポー・ダメロンを助けて逃走することになるアイデアが出て来ます。
これが完成版でのフィンの人物設定につながったわけですね。
ポー・ダメロンは、ジェダイか賞金稼ぎだった
そのポー・ダメロンは、初期構想では「ジョン・ドゥー(名無しの権兵衛)」という仮の名前が付けられており、「スター・ウォーズ/フォースの覚醒 MovieNEX」のメイキング映像でも明かされているように元々はジャクーで墜落した際に死んでしまうはずでしたが、映画の後半にも登場させることをJ・J・エイブラムスが決定。
その初期構想のポー・ダメロンのコンセプトアートでは、30~40歳の若い頃のサミュエル・Lジャクソンが反乱軍士官になったような黒人のキャラクターでした!しかもキャラクターの設定段階では、ジェダイや、ウーキーの相棒を連れた賞金稼ぎという構想も!
フィンは、原住民に助けられるはずだった
タイ・ファイターがジャクーに墜落した後、フィンにあたるキャラクター(「サム」)は現地のエイリアンに助けられ、彼らの村で治療を受けるというのが初期構想。
これは、ジョージ・ルーカスが用いていたことでも知られるジョセフ・キャンベルの「英雄の旅(ヒーローズ・ジャーニー)」の一環ということで、「サム」が英雄に生まれ変わるという意味を持つシーンの予定だったとのこと。
マズ・カナタはパペットで撮影される予定だった
マズ・カナタは、コンセプトアートではヨーダのような容姿のキャラクターであり、シャーマンという設定だったとのこと。そして、マズ・カナタは同じくヨーダのようにパペットで制作出来ないかと考えられていたようです。
『スター・ウォーズ』オリジナル・トリロジーに立ち返るという制作アプローチを行っていただけに、この考え方は当然とも思えますが、やはりモーション・キャプチャーの表現力の方を取ったということですね…
『フォースの覚醒』本編の描写では、ジェダイではないもののフォースを知るキャラクターであるということが明かされていますが、ヨーダをイメージしていたのは納得。
驚きなのは、マズ・カナタは『フォースの覚醒』で最後にデザインされたキャラクターであり、キャラクターデザインが完成したのはなんと2015年10月!そんなギリギリに決まったのか!
映画公開の2カ月前で、キャラクターデザインが完成してもなんとか間に合っているのが本当にすごい…
水中に沈む第2デス・スターの残骸から
「地図」を探すストーリーだった
初期のアイデアの中のひとつでは、第2デス・スターの破片が水中に沈んでおり、レイがジャンク品を回収するという案がありました。
コンセプトアートの中には、レイが水中に潜ってデス・スターのトレンチを通り抜けている絵も。爆発した第2デス・スターの破片がトレンチとわかるほどに原型を残しているのか、という点は置いておいても、水中にデス・スターの名残があるシーンの画は見てみたかったですね…
レイは水中で、かつて皇帝の塔だったデス・スターの破片の中から、ルークの居場所を示す「地図」を手に入れるというのが、これらの初期構想でのストーリーでした。
スターキラー基地はダントゥインにある構想だった
元々、スターキラー基地のような超兵器がダントゥインの内側に作られているという初期構想でした。
ダントゥインは、『エピソード4/新たなる希望』でレイアがターキンに反乱軍の基地の場所を尋問された時に告げた惑星。この時すでに反乱軍が引き払った後でしたが、発想としては反乱軍の後に帝国軍が進出してファースト・オーダーの基地をダントゥインに定めようとしたのかも知れません。この基地の初期の名前の案は、「ドゥームスター」。
アナキン・スカイウォーカーが霊体で登場する構想だった
なんと、あのアナキン・スカイウォーカーが霊体で登場することも考えられていました!しかも、ダース・ベイダーとアナキン・スカイウォーカーの間を揺れる霊体をイメージしていた時期もあった!
『エピソード6/ジェダイの帰還』でアナキン・スカイウォーカーはライトサイドに帰還したので、またダークサイドとの間で揺れ動かれてはオリジナル・トリロジーが台無しになるじゃないか!これは実現しなくて良かったです…
カイロ・レンに至るまでの様々な悪役のアイデア
『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』のために様々な悪役の案が考えられ、それらは「ジェダイ・キラー」と呼ばれていました。
最終的には、未熟で修業中の悪役であるカイロ・レンが登場することになりますが、ダース・ベイダーという絶対的な悪役がいるシリーズということもあり、新悪役は試行錯誤を繰り返して練り上げられていったようです。
そんな数々の悪役の案の中には、『フォースの覚醒』以外の作品のキャラクターに流用されたものもあり、クリスチャン・アルズマンによる「ジェダイ・キラー」のコンセプトアートは、「スター・ウォーズ 反乱者たち」シーズン2に登場するフィフス・ブラザーとなりました。
この他にも、黒い円がデザインされた赤いマスクの「ジェダイ・キラー」は、『フォースの覚醒』のグアヴィアン・デス・ギャング・ソルジャーのデザインに使用されています。
またJ・J・エイブラムスは、悪役がダース・ベイダーとそっくりのコスチュームを身に付けた偽物として登場し、ルークを混乱させるという案を思い付いたそうです。
そして、瞑想室で恒星を食らって強くなる「ジェダイ・キラー」のコンセプトアートも確認出来ます。「恒星を食らう」という点が、スターキラー基地のアイデアにつながったのかも知れませんね。
悪役については、レジェンズのスピンオフコミック「スター・ウォーズ レガシー」で人気のダース・タロンのコンセプトアートが描かれており、同じく『エピソード6/ジェダイの帰還』後のストーリーである『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』への登場も検討されていたことが伺えます。
「ウォーハンマー」という超兵器をレジスタンスが使用
レイア将軍は、よりストーリーの序盤から登場し「ウォーハンマー」という名前の超兵器を開発しているという案もありました。
そのレジスタンスが開発した超兵器「ウォーハンマー」は、スター・デストロイヤーの数倍もの大きさを持った巨大な宇宙船で、前面からはどのようなシールドをも通して宇宙船を配備する能力を持つ船だったとのこと。
超兵器は帝国やファースト・オーダーなどのダークサイド側の専売特許なイメージがあり、レジスタンスが開発している設定が実現していたら、意外性があったでしょうね…
レジスタンスが強大な兵力を持っていたら、ファースト・オーダーがこれにどう立ち向かうのか、という視点になってしまいかねないのでストーリー構成上、この展開は避けて正解だと感じます。
呑んだくれでマカロニ・ウェスタン風のハン・ソロ
初期のコンセプトアートでは、ハン・ソロはロングジャケットに身を包み、結んだ髪とヒゲという、セルジオ・レオーネのマカロニ・ウェスタン風の出で立ちで描かれていました。
キラとサムは、呑んだくれで無一文のハン・ソロと「クライム・シティ」と呼ばれる惑星で初めて出会います。ハン・ソロの登場の仕方は、間違いなく完成版の『フォースの覚醒』の方が間違いなくかっこいい!
BB-8の初期構想の名前は「サーリー」
キラは元々、小さくてプローブ・ドロイドのように浮遊する自分のドロイドを持っており、そのドロイドが廃品回収を手伝ってくれるという案がありました。
また、R2ユニットの頭部にプローブ・ドロイドを付けたような、ジョン・ドゥー(後にポー・ダメロンとなるキャラクター)のドロイドのコンセプトアートも描かれています。
さらに、ドロイドの名前もBB-8ではなく「サーリー」と呼ばれています。その初登場はスター・デストロイヤーのドロイド修理区画で、溶鉱炉で処分を免れたドロイドという案もありました。
ジャクーは砂漠だけの惑星ではなかった
初期のジャクーは、帝国軍の宇宙ステーションが墜落した惑星とされていましたが、ジャンクだらけでインペリアル級スター・デストロイヤーの残骸が散らばる「ジャンク・プラネット」と呼ばれる地へと変化していきました。
また、ジャクーは砂漠だけの惑星ではなく、雪と氷や、一面に茂った草木に覆われているという案なども考えられていました。
合わせて、1960年代のマカロニウエスタンや、アフガニスタンの短編映画『ブズカシボーイズ』などの影響で、西部劇のような雰囲気が強まっていきます。
ダース・ベイダーの城がレイアのレジスタンス基地に
ラルフ・マクウォーリーが描いた、映画には未使用の『帝国の逆襲』のコンセプトアートの中にあったダース・ベイダーの城からインスパイアを受け、「ジャンク・プラネット」に城があるという案も。
「ジャンク・プラネット」以外の緑に覆われた惑星には、悪役の城のあるという案もありましたが、この案はレイアの城へと発展し、主人公達が「クライム・シティ」から離れてレイアと会う場所とされていました。城にはレジスタンスの基地も。
この城のイメージが、タコダナのマズ・カナタの城へとつながったのでしょう。
ミレニアム・ファルコンに宇宙海賊が乱入
エイリアンの宇宙海賊がミレニアム・ファルコンを襲うという案もありました。
おそらく、この案が発展してハン・ソロが載る貨物船エラヴァナにカンジクラブとグアヴィアン・デス・ギャングがやってくるシーンとなったのではないでしょうか。
最高指導者スノークは女性キャラクターという構想も
最高指導者スノークは、マズ・カナタと同様に最後に完成したキャラクターのうちのひとりです。
J・J・エイブラムスと、クリーチャーエフェクトスーパーバイザーのニール・スカンランは、最高指導者スノークを皇帝パルパティーンのように年老いたキャラクターにはしようと思ってませんでした。あまりにもパルパティーンと似たキャラクターは避けたかったのでしょう。
スノークは女性キャラクターにする案まであり、等身大のマケットまで作って検討していたようです。これはおそらく、アンディ・サーキスがキャスティングされる前の出来事と思われます。
完成に至るまでに
あったかも知れない『フォースの覚醒』
『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』が完成し、スクリーンに上映されるまでには様々な可能性が検討され、広がった多岐に渡るアイデアの中から絞り込まれた上で、今の形になったことがわかります。
あったかも知れない『フォースの覚醒』のアイデアや、制作の舞台裏を知れば知るほど、この短期間でよくまとめ上げたなぁ…と改めて感心させられます。
『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』の作品情報については、『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』オマージュ/引用、トリビアチェックポイントまとめ、『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』カメオ出演総まとめ!の記事もございます。
参考:/FILM
2005年より「スター・ウォーズ ウェブログ」を運営。「『スター・ウォーズ』究極のカルトクイズ Wikia Qwizards<ウィキア・クイザード>」世界大会優勝者。ディズニープラス公式アプリ「Disney DX」のオリジナル動画や記事など、様々な出演/執筆も行っています。2010年、『ファンボーイズ』日本公開を目指す会を主宰しました。