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『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』レビュー【ネタバレなし】

ハン・ソロ スター・ウォーズ・ストーリー

 『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』のネタバレなしレビューです。

 ネタバレの一般的な定義である物語上の仕掛けや結末、キャラクターの運命、またそれまで明かされて来なかった秘密、サプライズ要素など、作品の核心に触れる詳細には触れておりません。

 現時点までの日本における本作のプロモーションにて公に明らかになっている以外の要素には言及せずにレビューした、未見の方もご覧になれる内容にはしております。

 ただ、どの程度までネタバレを気にするかは、人それぞれの価値観によって異なる部分もあるかと思います。

 作品の印象なども含めてレビューを目にしたくないという方は、現時点(5月31日現在)で日本公開前なので念のためとなりますが、ここから先は下部へスクロールしないようご注意ください。

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痛快な活劇映画の魅力たっぷりのエンタテイメント作品

 『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』の製作発表を最初に知った時、ハン・ソロがチューバッカとともにミレニアム・ファルコンで宇宙を駆け抜け、軽口を叩きながら様々なトラブルを切り抜ける、エンタテイメント性の高い痛快な映画が見たいと思った。

 はたして「スター・ウォーズ アンソロジーシリーズ」第2作となる『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』は、その見たいと思った通りの作品に仕上がっていた!

 映画は全編を通してアクション&チェイスシーンの連続で、ダレることなくテンポ良く進み、まさにジェットコースタームービー。ハラハラドキドキで笑える、活劇映画の魅力が詰め込まれている。『スター・ウォーズ』シリーズとはいえ過去作をすべて見ていなくても独立した作品として楽しめる、万人向けのエンタテイメント作品だ。

登場人物は全員悪人!ウエスタン要素を抽出した
ダーティーな『スター・ウォーズ』

ハン・ソロ スター・ウォーズ ストーリー チラシ

 そこで描かれる銀河には、『スター・ウォーズ』にも関わらず、「フォース」は存在しない。

 スクリーンに映る様々な惑星はいずれも荒れ果てた風景で、登場人物は基本的に全員悪人。

 西部劇、特にマカロニ・ウエスタンのように情無用の世界観と荒廃したルック、クローズアップショット、ならず者たちが犯罪を成功させるためにチームを組むクライム映画、そしてドン底出身の悪党が銀河の裏社会の中で上手く立ち回っていくピカレスクと、フォースよりもブラスターを信用する男の物語らしいジャンルの要素で構成されている。

 ジェダイが登場しない『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』ですら、背景としてフォースには言及されていたし、かつてジェダイだったダース・ベイダーがその力で猛威を振るった。

 しかし、『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』には超常的な力も、善と悪の対決もない。それぞれが、それぞれの利益や生き残りのために戦うのみだ。

 振り返ってみると、第1作目の『スター・ウォーズ』には人々を魅了する様々な要素が、この1本に詰まっていた。

 『スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望』がそれまでのSF映画と大きく異なっていた点のひとつに、長年使い古していることが一目でわかる汚しが施されたミレニアム・ファルコンに代表される、生活感を想像出来る美術描写がある。宇宙船といえばピカピカの新品であるという常識を覆したのだ。

 また、西部劇から引用されたハン・ソロをはじめとしたならず者たちも、ファンの想像力を大いに刺激するものだった。

 こうした要素を抽出したのが、『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』だ。

 「スター・ウォーズ アンソロジーシリーズ」第1作の『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』と同様に、『スター・ウォーズ』が持つ神話性はないし、『スター・ウォーズ』固有の映画的文法からも自由になっている。

 フォースに代表されるような哲学的な示唆はないので、何かを考えさせられる深遠さはない。

 しかしその分、若き日のハン・ソロのドラマから彼のバックグラウンドを知ることにより、長年に渡ってよく知っていたはずのおなじみのキャラクターに、新たな側面と深みが出てくるようになるのだ。

 これにより『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』と同様に、シリーズ過去作の描写に新たな意味がもたらされる。これには賛否が出る部分もあるかも知れないが、何度も見た映画からまた新しい感じ方が出来るようになるのは新鮮な体験と言えるのではないだろうか。

 また、過去シリーズと同様のシチュエーションや、これまでにセリフで言及されていたシーンを目の当たりにすることが出来るなど、シリーズファンならば思わずニヤついてしまうようなネタもかなりある。

 オリジナル・トリロジーはもちろん、プリクエル・トリロジー、『ローグ・ワン』、「反乱者たち」といった最近の作品から、レジェンズとなったスピンオフまで範囲も広く、イースターエッグ探しには事欠かないだろう。

オールデン・エアエンライクのハン・ソロの演技は

 さて、本作においてファンならずとも関心が高い点は、ハリソン・フォードを一躍スターダムに押し上げ、彼の代名詞とも言える当たり役のハン・ソロを、オールデン・エアエンライクがどのように演じているかということだろう。

 本作でハンを演じるオールデン・エアエンライクは、ときおり若い頃のハリソン・フォードにそっくりに見える時があり、タイトルロールであるハン・ソロの若き日の姿に違和感はなかった。

 オールデン・エアエンライクは、かなりハリソン・フォードの演技を研究した上で、彼なりのハンを作り上げていると感じる。特に、そのセリフ回しや、ギラついた目つきは『エピソード4/新たなる希望』のハンを想起させる。

 さらに、若き日のランド・カルリジアンを演じるドナルド・グローヴァーも、かなりおいしい役どころでランドを魅力的に演じている。

 ビリー・ディー・ウィリアムズのランド・カルリジアンとはまた異なるが(まだあそこまでの男爵感はない)、油断ならないイカサマ師にして洒落者というおなじみのランドに通じる姿には、もっとドナルド・グローヴァーが演じるランドを見せて欲しいと思わせられる。

ロン・ハワード監督への交代がもたらした影響

 もう1点、これまで本作の情報を追いかけてきた『スター・ウォーズ』ファンが気になる点は、監督交代劇によって映画本編にどのような影響がもたらされたのかということだろう。

 今となっては、当初作業をしていたフィル・ロードとクリストファー・ミラーがどのような『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』を作ろうとしていたのかわからない(そして、この2人のバージョンがどのようなものだったのか、公にはもう知るすべはなくなるだろう)。

 出来上がった作品は、様々な作品で実績のあるロン・ハワードにより、上述の通り確実にあらゆる層が楽しめる映画になっていた。

 『スター・ウォーズ』というフィールドで、強い作家性を持つ監督が自由に遊んだようなトガった作品を期待するならば、『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』はそういった作品ではないが、ロン・ハワード監督がタイトなスケジュールの中で任された仕事をしっかりとやり遂げた、堅実な作りのエンタテイメント作品になっている。

 つまり、監督交代によってクオリティが落ちたと言えるわけではない。フィル・ロードとクリストファー・ミラー版は気になるが、おそらくこれで良かったのだろう。

 1点、言いたいことがあるとすればミレニアム・ファルコンをもっとカッコ良く撮れたのではないかということ。伝説的な宇宙船のハン・ソロとの最初の冒険なのだから、より鮮烈で印象的なカットも欲しかったところだ。

『スター・ウォーズ』らしさを演出する音楽

 『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』がエキサイティングであると感じられる大きな要因のひとつは、音楽だ。

 ジョン・パウエルとジョン・ウィリアムズが共同で取り組んだ『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』の音楽の特徴でまず挙げられるのは、ジョン・ウィリアムズが過去にシリーズのために書いた名曲がアレンジされて再び奏でられていること!

 これは「スター・ウォーズ 反乱者たち」に近いアプローチだ。あまりにも有名な『スター・ウォーズ』の既存曲を使用することは、ともすれば安易になりがちだが、おなじみの楽曲は実になじんでいる。『スター・ウォーズ』らしい映画体験が出来るので、ファンは興奮間違いなし。

 さらに、ジョン・ウィリアムズは「ハン・ソロ」のテーマを書き下ろしており『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』に続いて新たなスコアが加わることになる。ジョン・パウエルによる楽曲も、ハラハラドキドキのシーンを効果的に演出している。

何者でもない男が、「ハン・ソロ」になるまで

 『スター・ウォーズ』は基本的に、若者たちのストーリーだ。

 『エピソード4/新たなる希望』で、まだ何者でもないルークがタトゥイーンの二重太陽の夕陽を見つめ、思い通りにならない今を、何も持ち合わせていない自分を、そして未来への不安を憂うシーンに代表されるように、オリジナル・トリロジーはルーク・スカイウォーカーという青年の成長を描いた。

 そのルークの父親のアナキンも、辺境で埋もれていた少年時代から、「選ばれし者」と呼ばれる傑出したジェダイ・ナイトの青年となるまでの間の栄光、つらく甘い恋、そして自分の大切なものをすべて壊してしまうことになる大きな挫折を経て、闇に生きることを選択するまでがプリクエル・トリロジーで描かれた。
 
 現在進行中のシークエル・トリロジーも、何者でもないレイが自分の隠された力に戸惑いながら、偉大すぎる親からの愛情に飢え、師に見捨てられたと傷ついたベン・ソロといった若者たちと出会い、本当の自分と、自分の居場所を見つけ出していく物語と言える(今のところは)。

 『スター・ウォーズ』の中では経験を積んだ賢者も強いインパクトを残すが、あくまでも若者の導き手に留まる。つまり、『スター・ウォーズ』は青春映画という側面もあるのだ。

 『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』は、まだ何者でもなかったハンが相棒となるチューバッカと出会い、彼が後々まで愛用することになるDL-44ヘビーブラスターピストルを持ち、愛機ミレニアム・ファルコンに乗り込んで、我々が良く知る「ハン・ソロ」になるまでが語られる。

 そのキャラクターがいかにしてヒーローとしての第一歩を踏み、どのような経験を経ておなじみのアイコニックな姿になったのかを描いた「オリジンもの」として満足のいく仕上がりだし、恋、友との出会い、今の境遇からの脱出、自分の力を発揮することへの自信、そして夢といった若者の成長も、これまでのシリーズと同様に描かれている。

 ジョージ・ルーカスの出世作であり、若者たちがそれぞれの道へと旅立つ前夜を描いた青春映画『アメリカン・グラフィティ』に若者のひとりとして出演していたロン・ハワードが、同作で共演したハリソン・フォードが演じた代表的な役柄であるハン・ソロの若き日を描く作品を監督したことは、とても数奇なものを感じさせられる。

 終盤のサプライズには賛否が起こるかも知れない。ただ、オールデン・エアエンライクが3作品の出演契約をしていることを明かしているように、ハン・ソロの知られざるストーリーにはまだ拡がりがありそうだ。

 トラブルには大胆不敵にハッタリで乗り切ろうとし、空回りしてひどい目に遭うのもチャーミングな、ブラスターとミレニアム・ファルコンと相棒を信頼する男の冒険譚を、また心待ちにしたい。