Disney+ (ディズニープラス)で配信中の「キャシアン・アンドー」第1話「キャサ」レビュー/トリビアチェックポイントです。
この記事では、「キャシアン・アンドー」第1話「キャサ」のレビュー(感想・考察)やトリビアの解説といった、このエピソードをより深く知るためのテキストを綴っています。
この記事はネタバレがございますので、「キャシアン・アンドー」第1話「キャサ」の本編鑑賞後にご覧ください。
「キャシアン・アンドー」シーズン1の他のエピソードは、以下のカテゴリーからご参照ください。

ディズニープラス(Disney+)で独占配信の『スター・ウォーズ』実写テレビドラマシリーズ「キャシアン・アンドー」のストーリー、レビュー、隠れ要素(イースターエッグ)やオマージュなどのトリビアの解説といった、エピソードをより深く知るためのテキストをまとめたエピソードガイドです。
「キャシアン・アンドー」第1話「キャサ」レビュー
「見たことがない『スター・ウォーズ』」だが、違和感のない舞台美術
「私は6歳でこの戦いに加わった」
このセリフから感じられる壮絶な半生。情報提供者であったティヴィックを、帝国軍から逃れられない可能性を見て取るやブラスターの引き金を引いて抹殺する非情さと、事後にわずかに憂うようなあの瞳。
帝国軍の科学者であるゲイレン・アーソの暗殺の命令を受ければ、その娘であるジン・アーソが側にいながらも実行に移そうとする、組織と個人の間で揺れ動く信念。
そして、同盟評議会で意見が分断された中で、決断出来ない組織に反してジン・アーソが語る希望を信じ、デス・スター設計図の奪取のためスカリフに向かい、その希望を届けた「ローグ・ワン」のひとり。
『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』で、デス・スターとその設計図の存在をつかみ、ジン・アーソら「ローグ・ワン」とともにわずかな可能性の中でデス・スター設計図のデータをもたらしたのが、反乱同盟軍情報部のキャシアン・アンドーだ。
このドラマシリーズ「キャシアン・アンドー」では、『ローグ・ワン』で語られた6歳から戦いに身を投じていたというそのルーツと、『ローグ・ワン』の5年前を舞台に、いかにしてあのキャシアン・アンドーとなっていったのかが語られることになるだろう。
その語り口は、「マンダロリアン」や「ボバ・フェット/The Book of Boba Fett」、もちろん「オビ=ワン・ケノービ」といった、これまでのディズニープラス『スター・ウォーズ』ドラマシリーズのいずれとも異なる。
暗い雨が降り、冷たい光に照らされたモーラーナ1の歓楽街でのいざこざは、「ブレードランナー」やそのイメージソースとなったフィルムノワールやハードボイルドのようだ。
荒涼としていても歴史が感じられ、どこか活気のあるフェリックスの街や、帝国軍とも反乱軍ともテイストが異なるインテリアのモーラーナ1のプリオックス=モーラーナ(プリ=モー)保安本部など、これまでの『スター・ウォーズ』で見たような情景はほとんど見られない。
この「キャシアン・アンドー」は、既成の映像作品では映されなかったものの、確かに『スター・ウォーズ』ギャラクシーに存在する、そこで生きる人々の日常生活へと初めてカメラが向けられたかのように感じられる。
そのような「見たことがない『スター・ウォーズ』」であるにも関わらず、美術や衣装、小道具の随所から「確かにここは『スター・ウォーズ』ギャラクシーだ」ということがわかるのは見事。
プリ=モー保安本部で使われているブラウン管や計器類、フェリックスで見られる廃品やビークルの数々は、「キャシアン・アンドー」が他のSF TVドラマではなく、『スター・ウォーズ』なのだということを主張している。
見たことがない世界のはずなのに、よく知っている世界。そのバランス感覚は絶妙だ。
説明的な描写を排したストーリー
そのストーリーも謎めいている。
キャシアン・アンドーは、モーラーナ1でケナーリから来た女を探す。キャシアン・アンドーいわく、彼女は妹なのだという。
人探しの最中で、2人のプリオックス=モーラーナの保安要員を殺してしまう。キャシアン・アンドーは、住んでいる惑星フェリックスで昨夜のアリバイを作りつつ、追跡出来ないNS-9 スターパス・ユニットをビックス・カリーンを通じて売ろうとする。
一方、プリ=モー保安本部では、シリル・カーン捜査主任が保安要員殺人事件の犯人の手がかりを探していた。
帝国に報告する犯罪率の低下のため事件をもみ消そうとする上司ハインの指示を無視し、やる気のない部下たちを咤しながら、従業員2名の命を奪った犯人を見逃すことが出来ず、腐敗した組織の中で正義をもたらそうとするシリル・カーン。
そして時折思い返されるのは、キャシアン・アンドーの知られざる「キャサ」と呼ばれていたケナーリでの幼少期の出来事…
キャシアン・アンドーは、この時点で殺人も厭わないような人物になっていたのか?我々が知っているキャシアン・アンドーにどの程度近付いているのか?キャシアン・アンドーが売って手放したいNS-9 スターパス・ユニットとは?時折、脈絡なく挟み込まれるキャシアン・アンドーの幼少期にはどのような意味があるのか?
「キャシアン・アンドー」の第1話「キャサ」は、まるでシーズン途中のエピソードから見始めてしまったかのようなストーリーだ。キャシアン・アンドーの行動にはこの出来事の前に、これにつながる動機や経緯があるはずなのに示唆されるのみに留まる。
奇しくも、『エピソード4/新たなる希望』のようなオープニングだ。説明的な描写はなく、映像の中から視聴者は頭を巡らす。
山場を作らないエピソード構成は、ファンへの信頼か甘えか
また「キャシアン・アンドー」の第1話「キャサ」では、大きなアクションシーンもない。
ドラマシリーズでは各エピソードの中で盛り上がりを用意していくことがオーソドックスな作り方だ。
これにより、各エピソードの満足感を創出したり、現代の配信時代においてますます重要になっている視聴途中での離脱を防いだりするものだが、冒頭のわずかな(しかし緊張感があってスピーディーな)揉め事の末の殺人があるのみだ。
通常のドラマでは、第1話からこうした作り方は滅多にしない。ひとつのエピソードの中でそのシリーズの魅力を表すような第1話にすることで、その後の視聴へとつなげていく入口にすることが多いはずだ。
「キャシアン・アンドー」の第1話「キャサ」では、「点」と「点」が淡々と現れていくに留まっており、この時点ではそれらは「点」でしかない。これらの「点」は、これからのシリーズの中のエピソードでつながっていき、やがて大きな意味を持ってくるのだろう。
1枚ずつのカードでは意味をなさないが、特定の種類のカードが集まると役になるポーカーのように。
このような第1話を作ったことには、わかりやすく興味を惹かずとも続きを見てくれるであろうという、『スター・ウォーズ』ファンへの信頼が制作側の土台にあるのではないか。あるいは信頼を言い換えれば、『スター・ウォーズ』と銘打てばファンは最後まで見るだろう、という甘えとも言えるかも知れない。
もうひとつ考えられるのは、2022年5月の時点で「キャシアン・アンドー」は8月31日(水)から初回2話同時配信と発表されているため、続けて第2話を見てもらうことを折り込んで構成された可能性だ(結果として、9月21日(水)の配信開始に延期する代わりに、第3話まで同時配信となったが)。
攻めた『スター・ウォーズ』
『スター・ウォーズ』の新作シリーズが始まると聞いて視聴した子どもたち(といっても、「キャシアン・アンドー」のディズニープラス上での年齢制限は12歳以上だ)にとって、この「キャシアン・アンドー」はこれまでのドラマシリーズと比べて、なかなか理解がしにくい導入だろう。
ジョージ・ルーカスは、『スター・ウォーズ』について「子どもたちのための映画をつくりたかった」と発言しており、「人生において大切なこと」を子どもたちが学べるような様々なメッセージが込められた現代の神話を作った。
その意味で、「キャシアン・アンドー」は本来の『スター・ウォーズ』とは考え方が異なるのかも知れない。ある程度の成熟や、痛みや、汚いものも見ていないとわからない何かがあるのだろう。
しかし、子どもはいつしか大人になる。1977年に8歳だったとすると、2022年には53歳だ。
45年を超えるシリーズである『スター・ウォーズ』だから、大人がいろいろわかった上で、綺麗ごとだけではない世界や、道徳が土台にあった上で、モラルから自由になるそのスリリングさを楽しめるような『スター・ウォーズ』があっても、そろそろいいのではないか。それはシリーズにより多様性をもたらす。
「キャシアン・アンドー」は、対象年齢が大人に設定された『スター・ウォーズ』だ。上述したジョージ・ルーカスの考えを踏まえると、かなり挑戦的な作品だと言えるだろう。実際、『スター・ウォーズ』の映像作品で「売春宿」という言葉を耳にするとは思わなかった。
それでは、『スター・ウォーズ』から離れたものをあえて『スター・ウォーズ』シリーズでやるべきなのか?という問いもあるだろう。
これについては、シリーズ全体を見通した時に『スター・ウォーズ』シリーズでこれをやった意味を見出せるものになっているはずだ。
そのキーになるのは他でもなく、タイトルロールであるディエゴ・ルナが再演したキャシアン・アンドーだ。
秘密主義で冷静沈着、人との交渉においても巧みなものがあり、嘘や詐称は『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』の5年前の頃から染み付いている。借金もあるなど、ハン・ソロのような危ない橋を渡ってきたキャラクターにも思えてくる。
そんなリアリスティックな男が、5年後にはデス・スターの設計図を奪取するという「希望」という名の大義のため命をかけることになるのだ。チアルート・イムウェから「君の牢は心の中にある」と言わしめられていたキャシアン・アンドーの、帝国軍との戦いに駆り立てた過去と、そのルーツとは?
それが解き明かされていく過程で、『スター・ウォーズ』という舞台で主人公をキャシアン・アンドーに選び、ハードなテイストのストーリーを紡いだ意味が見られると思われる。
ロケーションの地名がテロップで表示される、『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』と同様の映像文法も相まって(映像作品で、ABY-BBY暦法の「BBY」(Before Battle of Yavin)が登場したのも驚きだ)、「キャシアン・アンドー」は『ローグ・ワン』のテイストを残しつつも、また異なる魅力を持つドラマシリーズとなりそうだ。
ライトセーバーやフォースはもちろん、かわいらしいキャラクターも、タトゥイーンもない。一目でわかるオマージュや、名セリフの繰り返しもない。
わかりやすい言葉で言えば、「キャシアン・アンドー」は「攻めた『スター・ウォーズ』」だ。
鑑賞後、街中を歩く時に、キャシアン・アンドーの気分となって思わず周りを気にしながら足早になってしまうような、ハードでスリリングなシリーズを期待したい。
「キャシアン・アンドー」第1話「キャサ」トリビアチェックポイント
BBY
冒頭に登場する「5BBY」は、日本語字幕の通りヤヴィンの戦いの5年前の時代設定であることを示している。
ABY-BBY暦法は、ABY(After Battle of Yavin)、BBY(Before Battle of Yavin)を用いて、ヤヴィンの戦いの何年後/何年前なのかを意味する暦法だ。
つまり、『スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望』の何年後/何年前の出来事なのかを表している。映像作品でこの暦法が観客に明示されたのは、「キャシアン・アンドー」が初めてとなる。
コレリアン・ハウンド
フェリックスの街中や、宇宙船の駐機場にいる犬のような四足歩行の生物は、コレリアン・ハウンドだ。
コレリアン・ハウンドは、『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』のコレリアのシーンにて、逃走するハンを追跡していたクリーチャー。
『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』の脚本のジョン・カスダンによると、このコレリアン・ハウンドは『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』を監督したロン・ハワードの『ウィロー』に登場するデス・ドッグをオマージュしたもの。
ちなみに、『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』では犬にコレリアン・ハウンドのコスチュームを着せて撮影していたが、「キャシアン・アンドー」も同様の手法を取ったのだろうか…
ラガビースト
フェリックスの街では、『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』にてジャクーの砂漠でBB-8を捕らえたティードーが乗っていたラガビーストの姿も確認出来る。
フェリックスの街を進むB2EMOが、コレリアン・ハウンドたちをやり過ごそうとするシーンで、道の端の壁沿いに寝ているラガビーストが見られるのだ。
ウォバニ
ビックス・キャリーンが働くサルベージ・ヤードを運営するティム・カルロは、ウォバニからの荷物が到着すると言う。
ウォバニは、『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』でジン・アーソが連行されていた帝国軍の収容キャンプがある場所。
小説「レイア・オーガナ オルデラーンの王女」では、16歳のレイアが王位継承権のための試練のひとつとして、ウォバニで人道的任務を行っていた。
「マンダロリアン」シーズン2「チャプター14:悲劇」では、ネヴァロで保安官となったキャラ・デューンが使う端末のモニターに、ウォバニの刑務所に収監されている囚人がいることがオーラベッシュで記載されている。
ちなみに、ウォバニ(Wobani)という惑星の名前はオビ=ワン(Obi-Wan)のアナグラムだ。
B2EMOの声は、ドロイドパペッティアのデイヴ・チャップマン
B2EMOの声を演じているデイヴ・チャップマンは、シークエル・トリロジーでBB-8を操作したパペッティアで、声の制作にも携わっている。
また、『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』ではリオ・デュラントやレディ・プロキシマの操演も担当しており、複数の『スター・ウォーズ』シリーズに携わったスタッフだ。
ティムを演じたジェームズ・マッカードルは『フォースの覚醒』にも出演
ティム・カルロを演じたジェームズ・マッカードルも、実は『スター・ウォーズ』映画への出演経験があり、『フォースの覚醒』でレジスタンスのパイロットであるニヴ・レックを演じている。
同一キャストが演じているとはいえ、時代設定が大きく異なるためティムとニヴ・レックは当然同一人物ではないだろう。
ちなみに、ニヴ・レック(Niv Lek)というキャラクター名は、J・J・エイブラムスの祖父の名前であり自身の作品に多く登場する「ケルヴィン(Kelvin)」を逆さ読みしたもの。
オーリアン・スターキャブ
プリ=モー保安本部で、星間交通センターの飛行記録をシリル・カーン捜査主任が亜光速で飛行している航跡を見つけた際に言及される、オーリアン・スターキャブは1993年にウェスト・エンド・ゲームスからリリースされた「スター・ウォーズ ロールプレイングゲーム」の「Galaxy Guide 8: Scouts」に登場した旧共和国初期の探査船。
「キャシアン・アンドー」への登場で、その名称は正史(カノン)となったが、レジェンズと同様に古い宇宙船であるとされている。
グロウブルー・ヌードル
プリ=モー保安本部にて、職員がテイクアウトボックスに入った青い麺を食べている。
『スター・ウォーズ』公式サイトが『エピソード2/クローンの攻撃』のプロモーションの一環として展開していたウェブサイトのホロネット・ニュースでは、「スター・ウォーズ ホリデー・スペシャル」に登場したゴーマンダが紹介するレシピとして、青い麺料理のグロウブルー・ヌードルが掲載されていた。
このグロウブルー・ヌードルはジュニア小説「Pirate’s Price」で正史(カノン)となっており、「スター・ウォーズ:ギャラクシーズ・エッジ」をテーマにしたレシピ集「Star Wars: Galaxy’s Edge: The Official Black Spire Outpost Cookbook」にも掲載されている。
「キャシアン・アンドー」では、よくアメリカ映画やドラマに登場するチャイニーズのテイクアウトボックスのような容器に入っていたので驚いた!
フェリックスに駐機するYウィングなどの宇宙船
フェリックスの宇宙船の駐機場には、これまでの『スター・ウォーズ』シリーズに登場した様々な宇宙船が見られる。
まず、反乱軍の宇宙戦闘機であるYウィング。前方のコックピット部分が比較的大きく登場している。
「スター・ウォーズ 反乱者たち」でヘラ・シンドゥーラが乗っていたゴーストと同型機のVCX-100の姿も。
同じく「反乱者たち」で賞金稼ぎケツー・オンヨの宇宙船だったシャドウ・キャスターと同型機のランサー級追跡船もある。
さらに、『フォースの覚醒』、『スカイウォーカーの夜明け』に登場したオーチの宇宙船であるベストゥーン・レガシーと同型機のWTK-85A恒星間輸送船のほか、ディズニーの豪華客船クルーズ、ディズニー・クルーズラインのディズニー・ウィッシュ号にあるバー「スター・ウォーズ:ハイパースペース・ラウンジ」で見ることが出来るKGZ-54 スタークレーンもあるなど、数々の宇宙船がさりげなく映っているのだ。
「キャシアン・アンドー」はDisney+ (ディズニープラス)にて独占配信中。
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